同時刻 遠見市

そこでは、さっきまでと同じ様に一人の少女と一人の少年が対峙していた。
寝癖のように撥ねた茶髪が目立つ、鉄製と思しきグローブと使い古されたマントをその
身に纏った魔導師の少年と、ごくふつうの金髪の少女アリサ・バニングスの2人の睨み
合いが続いていた。

ただ、今までと違うのは。
アリサの格好が今まで着ていた学校の制服ではなくなっていることと、その手に
デバイスと思われる日本刀が握られていること。
そして、その足下には、紅蓮の炎に彩られたミッドチルダ式魔法の魔法陣が展開されて
いることだった。



(これがあたしの力……か)

見慣れた場所……愛犬の最期の地へと戻ってきたアリサの思考は、何故かひどく冷静
だった。
何処か知らない空間に飛ばされて、自分が望んだ力を手にして戻ってきた。普通なら
有り得ない荒唐無稽なことが起きた筈なのに、それをすんなり事実として受け入れられて
いた。
なのは達魔法使いのことを知っていたからかもしれないし、荒唐無稽だとか何とかと
いうのは今のアリサにとってはどうでも良かったからかもしれない。
……もっとも、それが現実なのだから、仮にアリサが目の前で起きたことを頑なに
否定したとしても、最終的には受け入れるしか道は無かっただろうが。

「何……だと?」

むしろ、アリサと対峙している魔導師の少年の方が、突然の状況の変化についていけない
ようだった。少年は自分の目を、耳を、五感全てを疑うことで目の前の事実―さっきまで
何の能力も持たず、虫の息だった少女が突如バリアジャケットと大きな魔力反応を纏って
現れたこと―を否定しようとしているようだった。
しかし、少年は呆然としながらもそれまでの事を思い出していたようで、やがて何かに
気付いたような顔つきになると、首から提げていた……先刻、アリサが触れたであろう
『何か』を見つめた。

「……コイツの、せいか」

その間も少年を凝視していたアリサだったが、少年の動作に思わず目を細めた。
少年が見つめたのは、チェーンに繋がれた星型の宝石だった。

(宝石? 見たことないものだけど……。綺麗ね)

それが放つ不思議な輝きに、遠目ながら見ていたアリサは状況も忘れて見惚れた。
宝石としては大きい部類だったが、特別磨き抜かれたわけでもない、むしろ原石に近い
状態の石だった。しかしその輝きはダイヤモンドでも届かないような、人を惹きつける
何かがあった。
だが、それを見る少年の表情は晴れなかった。

「くそっ……! もしそうなら、あと7日待たなきゃいけなくなる……!」

むしろ少年の表情は、アリサにとっては意味の分からない言葉と共に、さっきまでの
余裕を帯びたものから、まるで待ち望んでいたものがあと少しで手に入るというところで
遠ざかっていくような、どこか絶望を帯びたものへと変わっていた。

「何なのよ、あんたは」

訳の分からないことを言ったりしたり、めまぐるしく変わる少年の表情と行動に、
アリサは苛立ちを覚えた。それはすずかを傷つけられた怒りと混ざり、彼女の口から
言葉を吐かせていた。
すると少年は、それでようやく近くにアリサがいたことを思い出したかのように顔を
上げた。

「おっと、俺としたことが……。目の前に敵がいたことをすっかり忘れてたぜ。事情は
まだ俺にもよく分からねぇが、お前が魔力を持ったことだけは確かだ。これで、手加減
抜きで思いっきりやれる」

そして少年には、自分が力を手にする寸前まで見せていた、身も凍るような殺気が戻って
いた。だが、アリサもその殺気に臆することはなくなっていた。

「来なさいよ。あたしはあんたなんかには負けない。今度こそ、大切なものを……守って
みせる!」
「……いい面だ。じゃあ遠慮なく行かせて貰うぜ!」

そんなアリサの覚悟に対し、少年は不敵な笑みを浮かべた。



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