「頼むぜ、フェンリル!」
<<ja>>

戦闘態勢に入った少年は何かに呼びかけ、それに対して機械音のような声が返ってきた。
その声が聞こえたのが少年のはめているグローブから聞こえたことから、それが少年の、
恐らく「フェンリル」という名のデバイスであることに、アリサはこの時気付いた。

「リボルバー……シュート!」
<<Cartridge road, Revolver shoot>>

だが、アリサがそんなことを考えているうちに、少年は動いていた。
少年のグローブ……フェンリルから弾丸のようなものが射出され、橙色の炎が宿る。
そして少年は、そこにいる標的を殴るかのような速度で拳を突き出す。突き出された拳
から橙色の炎が弾丸のように撃ち出される。

「……。」

それに反応したアリサは、少年の仕掛けた攻撃に対処しようとした……が。

(って、どうすれば良いか分かんないじゃない!)

そこで、肝心なことに気が付いた。
確かに、今のアリサには彼女が望んで手に入れた力がある。
しかし、彼女は力を手渡されただけで、その使い方が分からないのだ。
このままでは、いくら強い力を持ったところで何の意味も無い。

(やっぱり、あたしじゃ駄目なの? あたしじゃ……すずかを、みんなを守れないの?
守っちゃいけないの?)

自分が力を持とうなどというのは虫が良過ぎたのか。
アリサは力を手に入れてもなお自分を襲う無力感に歯噛みした。

<<その刀で、向かってくる弾を斬ってください!>>
「!?」

だが、まさにその時だった。
どこからか、幻聴かもしれないと思うほど微かな、しかし強い声がアリサの耳に届いた。

「な、何!? あんた誰?」
<<とにかく言う通りにしてください! さもないとケガじゃ済みませんよ!?>>

突然聞こえた、しかも半分脅すような謎の声に、アリサは不信感を露わにする。
しかし(口調云々は置くとすれば)その声の言うこともある意味では正しかった。
実際、少年はアリサを討つ気で攻撃を仕掛けてきている。自分の力の使い方も分からない
現状では、このままでは攻撃を受け続けてやられてしまうのがオチだった。

<<早くっ!>>
「……あぁもう、分かったわよ!」

自分の頭をフル回転させてそれを理解したアリサは、憮然としながらも急かすような
その声に従い、日本刀を相手の少年の拳から撃ち出された炎の弾丸めがけて振った。
負けん気の強いアリサにとっては、このまま何も出来ないよりは、せめて一矢報いる
可能性のある方向へ踏み出す方が何十倍もマシだった。

「ええいっ!」
「……なっ!?」

すると次の瞬間、アリサの予想を上回ることが起きた。
アリサの振った日本刀は少年の放った炎弾を捉えた。そして日本刀に触れるが早いか、
炎弾は雲散霧消してしまったのだ。これには日本刀で受けられることを予想していた
少年も驚いて目を見開いた。

「な、何なのこれ?」
<<詳しいことは後で説明します! 今は攻撃を振りきって逃げてください!>>

アリサとしては謎の声の言う通りにしただけだったので、少年の驚きぶりに逆に
面食らってしまった。そこで声に尋ねてみるものの。声の方からは相変わらず要領を
得ない返事が返ってきた。

「分かったわよ!」

今までの一連の動作で、とりあえずこの声の言う通りにしていればここで倒れることは
無いだろうと思い直したアリサは、またも呆然としていた少年を尻目に、横に倒れていた
すずかを背負ってその場から走り去る。折角手に入れた力の使い方が分からないこの
状況のままでは、すずかもこれ以上傷つけることになる。ともかく今は、自分のためと
言うよりすずかのために、アリサは躊躇なく退却を選んだ。

「……って、あれだけ大口叩いといて逃げるのかよ! くそっ、待ちやがれ!」

すると、しばしその場に立ち尽くしていた少年も我に返ってアリサを追ってくる。
だがアリサも、振り返ることなく少年の手から逃れられそうな場所を探しつつ走る。
何と言われようが知ったことではない。ともかく今のアリサには、腕の中にいる少女を
守ること以外は考えられなかった。



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