「クロノ君の話って、一体何なんだろうね」

同日16時、海鳴市。

なのは、フェイト、はやての3人は学校から真っ直ぐハラオウン宅へと向かっていた。
昼休み明け、念話でフェイトの義兄でもあるクロノから、学校が終わったら3人で来るようにと
呼び出されていたからだ。

「緊急いうわけやないみたいやったけど、クロノ君直々の呼び出しやからな。何や気になる
ことでもあったんちゃう?」

今日はアリサやすずかとの約束があった3人だったが、クロノがわざわざ授業中にも関わらず
念話で自分達を呼び出したので、2人には丁重に謝って彼の呼び出しに応じることにした。
緊急、というわけでは無いにしても、クロノがどうでも良いことで自分達3人を同時に呼ぶ
ことなどあり得ないからだ。
幸い、アリサもすずかも

「しょうがないわね。今度遊ぶ時には何かおごってもらうわよ?」
「お仕事じゃしょうがないよね。クロノさんによろしく」

と、ちゃんと自分達の事情を察してくれていたので、3人は申し訳無さを抱えながらも、一応
心置きなくクロノの所へ向かうことが出来た。

「最近はお義兄ちゃんもエイミィも母さんも、特に忙しいわけじゃないみたいだし、何か
危ないロストロギアが見つかった、みたいな報告も受けてないんだけど……。」

3人の中では、今回の呼び出し主に一番近い場所にいるフェイトですら、クロノの突然の
召集の理由には首を傾げていた。

ともあれ、案ずるより産むが易しという諺もある。言葉には出さなかったが、何にせよ
とりあえずハラオウン宅に行ってみれば分かるだろうという共通認識が、3人の中にはあった。

「とりあえず、行こっか」
「うん!」

さっきからずっと怪訝な顔をしていたフェイトに、なのはがそっと手を差し伸べた。
それを見たフェイトは、一瞬躊躇ったがすぐに笑顔になり、強くその手を掴む。
1人取り残されたはやては、やれやれと言った感じで苦笑する。

「やっぱりアリサちゃんとすずかちゃんのことは言えんのとちゃう?2人とも、ホンマに
らぶらぶやからな」
「は、はやてちゃん?」

そんなはやての言葉に、なのはとフェイトは揃って耳まで真っ赤になる。

なのはとフェイトは、はやてが初めて出会った頃から親友という枠では括れない程仲が
良かった。それが更に進展して、2人が恋人同士になってからというもの、なのはと
フェイトは人目も憚らずこんなことをするようになっていた。

「……冗談や。ほな、はよ行こか? クロノ君待たせたらあかんよ」
「そ、そうだね」

はやては太陽のような明るい笑顔を見せると、お互いに離すまいと手を繋いだカップルを
置いて、さっさと走り出した。そんなはやてのペースに追いつこうと、フェイトも駆け出す。

「……?」
「どうしたの、なのは?」

ところが、なのはだけが虚空を見上げてしばらく動かなかった。
手を繋いだなのはが動かないので自分も動けなかったフェイトは、怪訝な顔をしてなのはに
歩み寄る。

「あ、ううん、何でもないよ。ごめんね、早く行こう」
「せやな」
「……うん」

フェイトはなおも怪訝な顔を崩さなかったが、はやてが一足先に歩いていってしまったので、
思考を中断してなのはと共に歩き出す。
なのはもまた、もう一度虚空を見上げた。しかしすぐに、

(……気のせいだよね)

そう思い直して、フェイトの手を握り返して駆け出した。



しばらくして。

碧の風と橙の火の粉。

なのはが虚空に見た、それが少しだけ、夕暮れの空に浮かび上がり……すぐ消えた。



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