12月。すっかり寒くなって、時々雪も降るようになりました。どこの家もクリスマスツリーを飾ったり、
年賀状を書いたり、大掃除をしたりで本当に忙しそうです。
かくいう私、高町なのはも、学校や塾、それに管理局のお仕事や翠屋のお手伝いと大わらわ。
こんなに忙しい12月は生まれて初めてです。

そして…フェイトちゃんとの忘れられない思い出ができたのも、そんな年の終わりのことでした。



貴方だけのサンタクロース(side:高町なのは)



12月24日、私はフェイトちゃんの家に、みんなと一緒にいました。
昨年は色々あって出来なかったクリスマスパーティーをみんなでするためです。
私とフェイトちゃんだけでなく、アリサちゃんやすずかちゃん、はやてちゃんや守護騎士の皆さん、
ユーノ君にリンディさんやクロノ君やエイミィさんも一緒で、もう会場は大賑わいです。

…でも、私はそんなことは気になりませんでした。
ずっと、別のことが気になって仕方が無かったからです。

「フェイト。開けてみなさいよ、プレゼント」
「…うん、そうだね」

「あ、それ前に広告に乗ってたブラシですね。はやてちゃんの欲しがってた」
「ホンマや、ええなぁフェイトちゃん。私のと交換してくれへん?」
「う、うん…って、はやてのは私が買ったものじゃない。それじゃ意味無いよ」

恥ずかしいことかもしれないですが、私の目はずっとフェイトちゃんだけを追っていたんです。






フェイトちゃんが私に好きと言ってくれたのは、ついこの前のことでした。
でも、私はその時その場でお返事することが出来ませんでした。
確かに私はフェイトちゃんが好きです。でも、それは今までずっと「友達」としての感情だと
思っていて。だからきっとフェイトちゃんが私に言ったのも、友達としてのものだと思って
いたんです。

でも、フェイトちゃんは友達としてじゃなくて、もっと…私に恋をしてると言ってくれたんです。
それを聞いて、私は戸惑ってしまいました。フェイトちゃんは友達だと思っていましたし、そんな風に
告白されるのは男の人からだと思っていたし、でもフェイトちゃんの想いを無碍にするわけにも…と
私の頭はグルグルになっていました。

そんなことを考えているうちに、フェイトちゃんは寂しそうな顔で

「変なこと言ってごめん、なのは。やっぱり…迷惑だよね」

と言って、走り去ってしまったんです。
その時のフェイトちゃんは…泣いていました。

それから、私達はお互い気まずくて顔を合わせられなくなってしまいました。
私もフェイトちゃんも、みんなの前では普通にしていたから、みんなには気付かれていないですけど。

でも、私は今でもフェイトちゃんとちゃんと話も出来ません。
フェイトちゃんは私なんかを好きと言ってくれたのに。
私も、フェイトちゃんとまた楽しくお話したいのに。

フェイトちゃん…。
私は、フェイトちゃんを…。

そこまで考えて、私の意識は闇の中へ呑まれてしまいました。







「…は。…のは。」

私は、誰かの呼ぶ声で闇に呑まれた意識がゆっくりと浮きあがってくるのを感じました。

「…ん、うぅ。」
「なのは…大丈夫?」

あれ?意識を取り戻した私は、ここが何処なのか、今まで何をしていたのか思い出すのに
時間を使いました。
…そっか。あれから私、寝ちゃったんだ。ということは、ここはフェイトちゃんの家。
じゃあ私を起こしてくれたのは…。

「あ、ゴメンねフェイトちゃん。大丈夫、眠くなっちゃっただけだから。」
「良かった…。」

フェイトちゃんはずっと心配してくれたみたいでした。
私にとって、それは嬉しいような、申し訳ないような。

「あ…もう遅くなっちゃったから、今日は家に泊まっていってよ。なのは」
「え、もう12時?…うん、分かった。そうするね」
「…。」
「…。」

でも、やっぱりお互い気まずくなって言葉が続きません。
どうしたら良いんだろう、こういう場合…。

私はフェイトちゃんが好きです。でも、その気持ちがフェイトちゃんに応えるようなものか
どうかは分からなくて。

…とりあえず、話をしなきゃ。フェイトちゃんとお話したいですし。

「フェイトちゃん」
「なのは」

話しかけようとしたら、フェイトちゃんもやっぱり私に何か話したいことがあるみたいでした。

「いいよ、フェイトちゃんからで」
「ううん、なのはからどうぞ」

フェイトちゃんは(私もだったと思いますけど)ちょっとたどたどしくも私と目を合わせて
話してくれました。

「フェイトちゃんから」
「なのはから」
「フェイトちゃん」
「なのは」

そんな他愛も無いことを言い合っているうちに、私もフェイトちゃんも、今まで
気まずかったのが段々どうでも良くなってきました。
そうやって、私とフェイトちゃんはしばらく笑い合っていました。






「…じゃあ、私から言うね」

それから。ちゃんと目を見て話せるようになった私とフェイトちゃんは
じゃんけんでフェイトちゃんが話すことを決めました。

「この前は…ごめんね。ずっとなのはを困らせていたようなことを言っちゃって」

フェイトちゃんは少ししょんぼりして言いました。
私はゆっくり首を振りました。確かに最初に好きと言われた時はびっくりしたけど
フェイトちゃんとちゃんと話せるようになった今は、もう落ち着いていました。

「ううん。それがフェイトちゃんの本当の気持ちなら、仕方ないよ」

私の返事を聞いて、フェイトちゃんは少し安心したように溜め息をつきました。
…でも、それだけではなくて。

「なのは。…やっぱり私達、友達でいよう」

え…?
次いで紡がれたフェイトちゃんの言葉に、私は耳を疑いました。
だから、すぐに思ったことが口をついて出てしまいました。

「どうして?フェイトちゃんは…私が好きじゃなかったの?」

でも、私にもすぐに分かりました。
私がフェイトちゃんに告白された時の戸惑い。きっとそれを見たフェイトちゃんは
フェイトちゃんが好きな私をこれ以上困らせないために、そう決めたんだと。

…だけど。だけど。
フェイトちゃんがそう決めたのが私の態度にあったことは分かっているけど。
私のためを思って自分の本当の気持ちを閉じ込めたのは分かっているけど。

何だか、嫌でした。悲しかったです。
どうしてなのか分からなかったけれど。

「どうして、どうして…?」

それはフェイトちゃんに向けた問いでもあったけれど。
私自身に対する問いだったとも思います。

「なのは…。」

すぐ側にいたフェイトちゃんを、今度は私が戸惑わせてしまったみたいでした。
でも、フェイトちゃんは私のことを本当に大事に思ってくれていて。
言葉は無かったけど、割れ物に触るように優しく私を抱き寄せて、胸を貸して
くれました。

「ごめん。ごめんね、なのは…。」

ううん、フェイトちゃんは悪くない。悪いのは私だよ…と言おうとしましたけど、
私は声を出すことが出来ませんでした。

でも、フェイトちゃんの胸の中で、今までに感じたことのない安堵を感じて。
私は一つ、やっと色々なものに答えを出すことが出来ました。

「フェイトちゃん、私も言いたいことを言うから、ちょっと待っててね」

私はそう言うと、一度フェイトちゃんの部屋を出ました。
そして、リビングにあった(この時、何故かリンディさんもクロノ君もエイミィさんも
いませんでした)私の荷物の中から、ラッピングされた物とサンタさんの衣装を
取り出しました。

これは、フェイトちゃんと仲直りをする。そのために持ってきたものでした。
きっと、この後これを使う目的は、私の考えていたことと違ったものになるでしょうけど。
それでも、フェイトちゃんに私の「思い」を伝えるために使うことに違いはありません。






「お待たせ、フェイトちゃん」
「な、なのは?」

私がそっとフェイトちゃんの部屋に戻ると、サンタさんを知らないフェイトちゃんは
この格好に目を丸くしていました。

「…どうしたの、その格好?」
「ふふ、これはサンタさんの服だよ。」
「サンタさん?」

フェイトちゃんはますます目を丸くしたみたいでした。きっと頭の中ではサンタさんが
どんなものなのか、色々考えてるんだろうなぁ。

「うん、サンタさんは、クリスマスの夜に良い子にプレゼントをあげるんだよ。
だから、今年1年ずっと良い子にしていたフェイトちゃんにプレゼントをあげる」

そこまで言うと、私は持っていた包みを解いて、中のマフラーをフェイトちゃんに
巻いてあげました。

「どうかな?フェイトちゃん」
「うん、暖かいよ、なのは。ずっと大切にするね」

フェイトちゃんは素直に喜んでくれました。でも、その綺麗な瞳には疑問と不安が
残っているように見えました。

だから私は、それを払拭してあげるために。
フェイトちゃんの告白に、応えるために。
さっき、フェイトちゃんに抱き寄せられた時に出た、私自身の答えを示しました。

「それから、フェイトちゃんは本当に良い子だからもう一つ。」

そう言うと、私はフェイトちゃんの頬に手を添えて、その柔らかい唇と自分の唇を
重ねました。

「なあに?なの…んっ」

これが、私の答えでした。
初めて告白された時は、びっくりが先走って分からなかったけれど。

「フェイトちゃん…。身勝手かもしれないけど、やっぱり私もフェイトちゃんが好きだよ」

きっと、ずっと前から。
私・高町なのはは、フェイトちゃんが好きだったんだと思います。
そして、フェイトちゃんは。

「ううん、身勝手なんかじゃないよ。ありがとう…なのは」

顔を真っ赤にしながら、私の手に自分の手を重ねてこう言ってくれました。
もう、言葉は要りません。

「フェイトちゃん…。」
「なのは…。」

そっと、名前を呼び合うだけで。見つめあうだけで。
想いが同じ方向を向いていることが、分かるから。
そして、私達は2度目のキスをしました。

「メリークリスマス、フェイトちゃん」
「メリークリスマス、なのは」



夜の闇を、白く輝く雪が照らすホワイトクリスマス。
私達にとってその日は、変えがたい思い出を残した日となりました。



今、この空を見上げている全ての人達へ。
――メリークリスマス。



あとがき
…やっぱり過去のブツを晒すのって一種の罰ゲームな気が(ry

そんなことは良いとして。このSSは2006年のクリスマス記念3部作の3つ目として
これこれに続いて、えらく久々に書き上げたものです。3部作の共通点であるサンタコスと
マフラーのプレゼントもしっかり盛り込んであります(笑)

本当なら12月24日に完成させる予定だったんですが、色々なサイトのクリスマス記念の作品群を
見たり、郵便局のバイトがあったりで結局mixiとブログに上げたのが25日の23時半でした。
ギリギリもいいとこだね!

自分には甘いのが書けないんじゃないかと本格的に思いだしたのがこの頃。
だってあんまり甘くないですよ、これ(笑)
なのフェイは甘くてナンボな一面がありますからね。
…ともかく、これからも精進していきたい次第です。



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