今年もまた、この季節がやってきた。
12月の終わり、一応町と言える程度には盛っている興宮は勿論、私達の住む雛見沢のような
寒村でさえ、普通の人にとっては1年の中でも超がつく位重要なとあるイベントへ向けて大きな
賑わいを見せている。

そう、クリスマスだ。

もっとも、私個人としては家の都合もあってあまり関心は無かった。小さい時はおもちゃ屋で
えらく真剣な顔で子供のプレゼントを吟味する親を見て、いい年をした大人が何をしているんだろうと
訝しんだものだ。

でも、それは昨年までの話。
今年はかつて無い程に、色んな条件―状況、役者―が整っている。だから、今までは気にも
留めなかったどこぞの宗教の開祖サマの誕生日をハデにお祝いするとしよう。
お祭り好きが揃った我が部の部長として。

園崎魅音という、一人の女の子として。



貴方だけのサンタクロース(side:園崎魅音)



「…って感じで、今年はクリスマスに部活をやろうと思うんだけど、どうかな?」

翌日、私は皆にクリスマスに行おうと前々から考えていた「部活」の提案をした。
日々の部活で色々とネタを考えてあるので、クリスマス風味に趣向を凝らすことなど造作も
無いことだった。…もっとも、クリスマスという日の根本的な意味を私はよく理解して
いなかったので、そこだけは詩音に色々と聞くことになってしまったのだけれど。

「わぁ、楽しそうだねっ。レナもクリスマスに皆で遊びたいと思ってたんだよ、だよっ!」
「おほほほ、魅音さんにもようやくそういった情緒が身に付いたようですわね!」

レナと沙都子は私が話し終えると一も二もなく賛同した。沙都子は相変わらずの文句を添えてきたが、
それはいつものことなので軽やかにスルーする。

「みぃ、ボクも良いと思うのですよ」

梨花ちゃんもあどけないスマイルで乗ってきた。まあ、元より反対される理由があるとは
思ってなかったけど。
…けど、もう一人の意志を確認する時には緊張した。もし彼が参加できないなんてことになれば、
「園崎魅音としての」この計画は失敗したも同然なのだ。

「よっしゃあ、俺もやる。今度こそ完全勝利を掴んでやるぜ!」

もっとも、それは余計な心配みたいだった。
圭ちゃんも他のみんなと同じように、何の躊躇いも無く了承してくれた。
うんうん、流石はお祭り好きの我が部員達だ。そうこなくっちゃ、ね。

どうやら今年のクリスマスは、今までで一番充実した日になりそうだった。






「よーし、みんな揃ったね?」

そして12月24日。この日まで色々と準備を重ね(恐らく他のみんなも様々な策を巡らせて
いたことだろう)例の如く部室に集合した私達は、「クリスマス仕様」の部活を開始した。
ルールは極めて簡単。みんなが1人5つ、プレゼント交換よろしく用意した景品を巡って
5種類のゲームで戦うというものだ。ゲームで1位が3つ、2位が2つの景品を手に入れ、
最終的に一番多くの景品を獲得した人が優勝で、これまた例の如く、最下位の人に不可避の命令が出来る。

「今日は景品も命令権も俺が頂くぜ!」
「みぃ、今日の圭一は自信満々なのです」
「おーっほっほ。では私はその圭一さんの根拠の無い自信を木っ端微塵にしてさしあげますわ!」
「みんな燃えてるね。よ〜し、レナも負けないように頑張るよぉ!」

いつもと違う「仕様」だからだろうか、みんなのテンションや意気込みは妙に高かった。
これはうかうかしてると私も負けそうだ。気合い入れていかなくちゃね!

「皆気合い充分だね、感心感心。でもそれと実力は別だよ?今日も勝利は百戦錬磨のおじさんがこの手に掴むよ!」

そう。まあいつものことと言えばいつものことなのだが、私は勝たなければならない。自分で企画した
手前もあるし、部長としての尊厳みたいなものもある。でも、今日いつもより「勝たなければ」と
感じているのは、あらゆる肩書きを取った「園崎魅音」としてもそう感じているからだった。

私のある「願い」を、自分自身の力で叶えるために。






「悔しいですけど、今回は私の負けですわね」
「やっぱり魅ぃは強いのです」
「もう少しだったんだけどなぁ…。」
「くっそ〜、世の中そんなに甘くはねぇか…」

楽しい時間はいつもあっと言う間に過ぎるもので、今日の部活も一瞬とも思えるような早さで決着がついた。

1位:私、2位:梨花ちゃん、3位:レナ、4位:沙都子、そしてもはや定位置と言っても
差し支えないような(本人に言ったら怒るに決まってるけどね)圭ちゃんのビリ。

そう、私は辛くも今日の部活を制した。
雪合戦では沙都子のいつも以上に練られたトラップと梨花ちゃんが作った雪だるまを見て発動した
レナの「かぁいいモード」に大苦戦し、ババ抜きでは圭ちゃんがイカサマに引っ掛からずに
善戦したおかげで勝負は長引き、集中力切れから危うくカードの傷を見間違えるところだった。
他のゲームでも、皆いつも以上にやる気を出しているために一筋縄ではいかなかった。

それでも、何とか私は勝った。
それはきっと、私の「やる気」もまた、皆と同様にかなり出ていたからだろう。

「くっそ〜、煮るなり焼くなり好きにしろよ、魅音!」
「負けたから仕方ありませんけど、面白くない展開ですわね」
「はぅ〜、今日は圭一くんのどんなかぁいい格好が見られるのかな、かな?」
「…きっとクリスマス用の特製罰ゲームに違いないのです」

圭ちゃんは自暴自棄、沙都子はふてくされて、レナは興味津々、梨花ちゃんは戦々恐々といった
感じで、何だかみんなの反応は見ていて面白かった。まあ、普段の罰ゲームはそれだけ強力なものに
してあるからねぇ。
…とと、今はそんなことを考えてる場合じゃなかったっけ。
今日の部活を制した私から、最下位の圭ちゃんへの拒否権無しの命令。やっぱり普段の行いがあって、
否が応にもみんなの注目が集まる。
これだけ注視されると、今から言うことが場に与える影響に、言葉を呑みこみそうになって
しまいそうになるんだけど。
でも、そうはいかない。今日まで色々準備も重ねてきたんだし。

「じゃあ、圭ちゃんは解散後自宅で待機!罰ゲームはおじさんがそこへ持って行くよ!」

ふぅ、これで良し。それにしても、我ながら全く空気の読めていない命令だ。
当然のことだけどみんなからは結構な反応がある。

「うげ!?家でって…どれだけ恐ろしい罰ゲームなんだよ!」
「ここで実行ではございませんの?面白くありませんわね。」

圭ちゃんと沙都子はさっきと同じ反応だった。まあ、この2人なら私が考えていることなんて
想像もつかないだろう。…沙都子はともかく、圭ちゃんには少しでいいから悟って欲しいと思ったり
するんだけど…ま、いいか。それもこの園崎魅音様にとっては予想の範疇だし、ね。
けれども、レナと梨花ちゃんには(この2人はああ見えて結構鋭いからなぁ)思うところがあったみたいで、

「みぃ、じゃあまた明日、嘘抜きで罰ゲームの様子を詳しく教えて欲しいのです」
「圭一くんも魅ぃちゃんも頑張ってね〜♪」

こう言われた。まあ、この2人は邪魔立てするつもりは無さそうだから(あったら本当にこの計画はブチ壊し)
とりあえず笑って誤魔化す。…ああ、笑顔が引きつってるのを感じるよ〜。
こんな感じで大丈夫かなぁ、私…。






 その後はお開きとなり、みんなそれぞれ帰路に就いた。
その表情には一様に戦い終えた疲労感と満足感が浮かんでいて、他の人が見ても今日の戦いの
激しさが分かるというものだ。やっぱり部活はこうでなきゃいけないね。
もっとも、私自身の戦いはこれから。今までが前哨戦だった、なんて甘いことを言うつもりは無い。
でも、私にとってこの先はいつも以上に本気の本気だ。

私は一度家に戻ると、押入れの中から包み紙とリボンで包装された箱を取り出した。
これは今日に備えて私が用意した物(包装含む)であり、今日のキーアイテムでもある。
そしてあと2つ、これで準備は完了だ。

さあ、始めよう。園崎魅音、一世一代の戦いを…!






 数分後、私はとある家の前にいた。
…いや、「とある家」なんて回りくどい言い方はやめよう。目の前の表札には「前原」とある。
つまりは圭ちゃんの家の前だ。

(落ち着け落ち着け、園崎魅音…!)

圭ちゃんならここで「クールになれ」と自分に言い聞かせるであろう状況に、私は陥っていた。
これからしようとすることを考えると、まるで自分が自分じゃなくないみたいに、心臓はいつもの
数倍以上早く脈打ち、寒さもあって手や足が震えた。沙都子あたりが見たら大笑いするような、
傍目から見れば全くもってらしくない私がそこにはいた。

正直なところ、さっさと逃げ出したかった。
でも、当然と言えば当然ながらそれは出来ない。

―みぃ、じゃあまた明日、嘘抜きで罰ゲームの様子を詳しく教えて欲しいのです。
―圭一くんも魅ぃちゃんも頑張ってね〜♪

あの2人が今日という日を私に譲ってくれた以上、ここで後戻りする訳にはいかなかった。
レナも梨花ちゃんも、今日の部活で勝っていれば私と同じことをしようとしたに違いない。
それを部活で私に負けたことで、潔くチャンスを認めてくれたのだから。

それに何より、挑まれた勝負からは絶対に逃げないで戦ってきた私としては、自分で挑んだ勝負を
放り出すわけにもいかなかった。そんなことをすれば園崎魅音の名折れだし、部活の部長としても
みんなに合わせる顔が無い。

…よし。
ここまで考えて、私は揺らぎかけていた決意を再び固めた。
後戻りする理由は無い。ここからは前に進むだけだ。

ピーンポーン。

私は震える指でインターホンを押した。
束の間の静寂。でも今の私にとってそれは、何分にも何時間にも感じた。本当に今の私の精神状態は
普通じゃないなぁと実感。
で、そうこうしているうちに、圭ちゃんがドアから顔を出した。

「魅音か?…いつ来るかとヒヤヒヤしてたぜ。」

その余りにも鈍感な圭ちゃんの様子に、私は今までの緊張が緩んでしまった。
レナか梨花ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませたいよ、全く。






「…で?何なんだよその格好は。それも罰ゲームと関係あんのか?」

私を家に入れた圭ちゃんは、開口一番こんなことを聞いてきた。まあそれはそうだろう。
今、私はサンタクロースの格好(というかコスプレ)をしていた。いくら今日がクリスマスとはいえ、
部活の勝者たる私が(コスプレは敗者…ひいては圭ちゃんの罰ゲームの常道だったし)
こんな格好をしてやって来るなんて、さしもの「口先の魔術師」も予想外だったに違いない。
笑いを堪えながら、私はこう答えた。

「まあね。それに、今日はクリスマスだし。こんな格好が出来るのも今日ならではだよ?」

それを聞いて、圭ちゃんは更に怪訝そうな顔になっていた。きっと私の様子から、罰ゲームの
内容を推理しているに違いない。…よし、ここまでは大体予想通りだ。いよいよ次のステップだ、頑張れ私!

「それじゃ、目を瞑って。勿論拒否権は無いからね?」

圭ちゃんは私の命令(?)に大人しく目を瞑る。圭ちゃんはこれが罰ゲームの始まりだと思っているんだろう。
何せあの鈍感ぶりだ。折角頭は切れるのに…。

っと、そんなことを考えてる場合じゃない。私はずっと背負っていた(サンタの格好をしているんだから
これが無ければ始まらない)袋を下ろし、中からさっきの包装された箱を取り出す。

「よいしょ…っと。」

私はその箱の中身…マフラーを、圭ちゃんの首に巻いた。この日のために(詩音の手も借りて)用意した、
私から圭ちゃんへの、想いを込めたクリスマスプレゼントだ。
「魅音…?」

圭ちゃんも首に何かが巻かれたのに気付いたようで、目を開けようとする。でも、ここで目を
開けられたら台無しだ。私は慌てて叫ぶ。

「まだ開けないでっ!」

思わず大声を出してしまったせいで、圭ちゃんはそれに驚いて今度は目をよりきつく閉じる。
そんな圭ちゃんに、私は可笑しくて思わずまた笑ってしまいそうになった。
さて、問題はこれから。色々と私なりに作戦を考えて、ここまで上手くやってきた今日という日の
締めくくりだ。
私はまた大きく深呼吸をした。何かしていないと、またぶり返してきた緊張に呑まれそうに
なっていたのだ。

(圭ちゃん…)

でも、もう一度圭ちゃんの顔を見ると、おかしなことに自然と緊張が引いてきた。ゆっくりと、
そして変に緊張することも無く、私の口からは圭ちゃんに対してずっと抱いていた感情が吐き出された。

「好きだよ、圭ちゃん」

そしてこれまた自然に、私の唇が圭ちゃんの頬に触れた。

…何時だったんだろう、私が圭ちゃんを好きになったのは。
最初は、自分の気持ちが理解出来ず、ずっと否定し続けていた。でも、ずっと一緒にいて、
やっぱり圭ちゃんが好きみたいなレナや梨花ちゃんの様子を見て何だか落ち着かなくなったりして、
それでようやく自分の気持ちに気付いたんだ。
でも、何時から好きだったかと考えれば、もしかしたら初めて会った時から好きだったのかも
しれない。そうでなければ、いきなり部活メンバーに加えたりもしないだろうし。

そして私はゆっくりと唇を離した。そんなことを考えながらだったから、長かったような気もするし、
短かったような気もする。…まあ、そんなことはどうでも良いか。いくら圭ちゃんが鈍感でも、
これで私の、圭ちゃんが好きって想いは伝わった筈だし。

「もう、目を開けてもいいよ。」

それから、我ながら間抜けなことに圭ちゃんが目を閉じっぱなしだったことにしばらくして気が付き、
慌ててこう言った。圭ちゃんは、ずっと顔を耳まで真っ赤にしたままで目を開けた。
そんな綿流しの祭で見る林檎飴みたいな顔は、見ていて面白かった。もっとも、私の顔も人のことを
言えない程真っ赤なんだろうけど。

「み、魅音…。」

圭ちゃんは林檎飴のまま、口をパクパクさせていた。いきなりあんなことをされて狼狽するのは
無理もない話だけど、ね。
…それにしても、どうして私はこんなに落ち着いていられるんだろう?
やっぱり、一つの大きな目標…みたいなものが達成できた充足感からだろうか。
まだ圭ちゃんからの返事も貰ってないのに(もっとも、しばらくはまともに話せる
状態じゃないみたいだけど)、おかしな話だ。

「メリークリスマス、圭ちゃん」

どうやらこのまま待っても圭ちゃんは返事をくれそうになかったので、ここは一旦帰ることにした。
詩音に言わせれば、こういう場合は相手が返事をくれるまで待つのが常道らしいけど、
ずっとこの場にいるとまた恥ずかしくなってきそうだった。

私は(今思えばおかしなことに)圭ちゃんをその場に残して、前原家を後にした。






「ふぅ…。」

外に出るが早いか、私は大きな溜め息を一つついた。
今更ながら、自分のしたことがとても恥ずかしいことだと感じていた。
よくもまあ、自分にあれだけのことをする度胸があったものだ。

さて、そろそろ家に帰ろう。
ここに来る時には気付かなかったけれど、外はしんしんと降る雪の影響もあって結構寒い。
こんな格好でいたら風邪をひいてしまう。折角の冬休み、寝込んで潰すことはしたくなかった。
もっとも、家に帰ったら帰ったで、圭ちゃんのことで頭が一杯になるのは目に見えていたけど。

そう考えて家に帰ろうと方向転換した時。

「待てよ、魅音!」

後ろから大きな、聞き慣れた声がした。
その迫力みたいなものに驚いて振り向くと、そこにはやっぱりまだ顔が赤く、私が巻いた
マフラーもそのままの圭ちゃんが立っていた。

「自分の言いたいことだけ言ってとっとと帰りやがって…。俺の話も聞けっての」

どうやら落ち着きを取り戻し、まともに喋れるようになったらしい圭ちゃんは、有無を言わせず
私のところへやって来た。
…ここで私の「告白」の返事をするつもりなんだろうか。そう考えると、また心臓が
ドキドキしてきた。どど、どうしよう、もしそうだったら…。

「魅音っ」

そんな風にグルグルになっていた私の頭に、更に追い討ちをかけるかのように
圭ちゃんは<私を強く抱き締めた。わわわ、け、圭ちゃんてば、どうしたの…?

「バカっ、こんな真冬にそんな格好で出歩きやがって。風邪でもひいたらどうすんだよ?」

そ、そんな薄着してる圭ちゃんに言われたくないし!さっきの私と同じようなことを
考えてるんじゃないよっ!っていうかそんな風にされながらこんなこと言われても…ああ、もうっ!

「な、何よ。わざわざそんなこと言うために外に出てきたっての?」

…我ながら、本当に素直じゃないと思う。考えてみれば、圭ちゃんにも最初はこんな物言い
ばっかりしてたから、いつまでも自分の本当の気持ちに気付かなかったのかもしれない。
私の想いを伝えるのがこんなタイミングになってしまったのかもしれない。

「んなわけないだろ?…魅音、俺は…。」

圭ちゃんは私の意地悪な言葉をあっさり受けると、続けて何かを言おうとしていた。何度も
言い澱んでいるのを見る限りでは、どうやら私の告白への返事を言おうとしているようだった。
自然と私の体にも力が入る。

しばらく身構えていたが、一向に圭ちゃんの口から言葉は出なかった。待ってるこっちとしては
段々じれったくなってくる。でも、私はさっきみたいに余計なことを言わずに待った。ここで
私から空気をブチ壊しにしちゃ最悪だもんね。
…そして。圭ちゃんは私の予想だにしなかった形で、返事をした。

「これは俺への罰ゲームだろ?いくらクリスマスだからって、親ならともかく仲間からの
プレゼントを貰いっぱなしになんか出来ねーよ」

その圭ちゃんの言葉が耳に届くか届かないかのところで、私の口は何か柔らかいものに塞がれた。
ちょ、ちょっと、これってもしかして…ええっ!?

「…ふぅ、これで分かっただろ?」

しばらくして、また林檎飴になった圭ちゃんは私の唇に触れていたもの…自分の唇を
こう言いながら離した。
もう私は、自分の心臓のドキドキを止めることが出来なかった。
そしてそれと同時に、私は圭ちゃんの想いが、自分と同じ方向を向いていることを知った。
もう何も、躊躇うことは無かった。
私はずっと下にぶら下げていた両手を、ゆっくりと圭ちゃんの背中に回した。

「圭ちゃん、大好きだよ」
「…俺も、お前が好きだ。魅音」

もう言葉も要らなかった。私はもう一度、今度はしっかりと目を閉じて、圭ちゃんとキスをした。
私は目を瞑っていたからよく分からなかったけれど、きっと圭ちゃんも同じ顔をしていたんじゃない
かな、と思う。
外はすっかり冷え込んでいたけれど、私は誰よりも好きな人の腕の中、変え難い暖かさを感じていた。

昭和58年、園崎魅音にとって最初のクリスマス。
それは、私が圭ちゃんにとってのサンタクロースになった日であり、私がサンタクロースに
最高のプレゼントを貰った日になった。






 次の日。真冬の夜に外で長い時間べたべたしていたせいで、私と圭ちゃんは揃って風邪を
ひいてしまった。まあ、圭ちゃんと一緒に風邪をひくならたまには良いかな…なんて思って
いたら、お見舞いに来てくれたみんなに尋問を受け、そこから前日の晩にあったことがバレた。
梨花ちゃんとレナはそんなに驚かなかったけれど(ただ、少しだけ悔しそうではあった)
沙都子が大騒ぎしたせいで村のみんなが私と圭ちゃんの関係を知ることになり、風邪が治った頃には
あちこちでからかわれることになってしまった。

「ったく。沙都子の奴、余計なことしやがって…。」
「でも良かったんじゃない?おかげでこんなことも人前で出来るようになったし。」
「わっ!…おい、後ろから抱きつくのはやめろって!」

サンタクロースって、案外本当にいるかも。
そんなことを感じた、雛見沢のクリスマスだった。



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