「遅いわね…何やってんのかしら、あの馬鹿」

機動六課解散から約半年後、ミッドチルダ首都・クラナガン。
快晴の空の下、その行き交う人々の喧騒の中に、やや不機嫌な顔のティアナが立っていた。

「ったく、『今日は2人ともオフだから、遊びに行こう』って誘ってきたのはあいつの方なのに
言い出しっぺが遅刻なんて」

その不機嫌な表情に違わず、彼女の口が開くたび、そこから不満げな言葉が紡ぎ出されては
街の喧騒の中に消える。もうかれこれ30分この状態だが、待ち合わせている相手は一向に
現れる気配がない。

「本当に、しょうがないんだから」

一つ溜め息をつくと、ティアナは歩き出した。
自分も相手もこの場所へ来るのは初めてではないが、相手が相手だけに、道に迷ったり
途中で道草を食ったりしているのかもしれないとの考えから、こちらから探しに
行こうと思い立ったのである。

「ティア、お待たせ〜」

だが、まさにティアナが待ち合わせ場所から離れようとしたその時、背後から彼女の名を
呼ぶ声が聞こえた。このタイミングで、自分のことを「ティア」と呼ぶ人間が現れるとしたら
それはさっきから散々彼女を待たせた相手以外に有り得ない。
振り向くと、案の定少し離れた場所に待ち合わせの相手…スバルが立っていた。
ようやく今までの『待ちぼうけ』状態から解放されたティアナは、また溜め息を一つつくと
元いた場所、つまりスバルのいる方向へ歩き出した。

「遅いわよ、バカスバル」
「ごめんごめん、まさかこんなに早くティアが来てるとは思わなくて」

しかしながら、当のスバルは遅刻した筈なのにも関わらず、悪びれた様子も見せない。
その上何か心外な言い方までされてしまい、ここでティアナの苛立ちは最高潮に
達してしまった。

「何よそれ?まるで私が遅刻常習犯みたいな言い方じゃない」
「へ?どういうこと?」
「だから『ティアがこんなに早く来てるとは思わなくて』って言ったでしょ?私はあんたに
言われた時間通りに来ただけなのに、何でそんなこと言われなくちゃなんないのよ?」

散々待たされた挙句そんな態度を取られるものだから苛立ち…というかもう怒っている
ティアナ。しかし、対するスバルはその言動と様子に思い当たる節があったようで、
その顔には笑みが浮かんでいた。

「はは〜ん、なるほど…。ティア、今何時?」
「?…10時55分でしょ。見れば分かるわよ」
「じゃあ今日のあたしとの待ち合わせ時間は?」
「そりゃ、11時…っ!」

言うと同時にティアナは赤面し、同時に今までスバルに対し抱えていた筈の苛立ちも
何処かへ行ってしまった。その苛立ちのせいですっかり忘れていたが、ティアナは
絶対に遅刻しないようにとかなり早めにこの場所に到着していたのだ。何故絶対に
遅刻しないようにと思ったか…言うまでもない、というかティアナにしてみれば
恥ずかしくて言えたことではないだろうが、他ならぬ自分自身が今日のスバルとの
逢瀬を楽しみにしていたからだ。

「か、勘違いしないでよバカスバル!あんたより遅くなってペナルティ付けられるなんて
まっぴら御免なだけなんだから!ましてや死刑なんて断固拒否よ!断固!」
「人を勝手にどっかの団長兼超監督兼編集長兼名探偵兼(ry にしないでよ〜。
…あ、でもちょっと待って」

真っ赤になった顔をスバルに見られたくなかったからだろう、彼女に背を向けていた
ティアナだったが、最後のスバルの「ちょっと待って」に悪寒が走り、振り向いた。
何だかんだ言っても長い付き合いである。こういう台詞を言う時のスバルは
何かしら(大抵はティアナにとって)良からぬことを考えているのだ。
果たしてティアナが振り向いた時に見たスバルの表情は、普段の天真爛漫で溌剌とした
それとは少し違った、確かに何か良からぬことを考えていると一目で分かるような
ものだった。

「ティア。早く来てくれたのは偉いけど、時間通りに来たあたしを遅刻扱いするのは
いただけないなぁ。ペナルティ、受けてもらうよ?」

ティアナが余計なこと言うんじゃなかったと心底後悔しているうちに、スバルは
耳元に顔を寄せて呟き、そしてそっと、優しく、ティアナの頬にキスを落とした。

「…でも、そんなティアが大好きだよ」

ティアナにとってその行為と言葉は、これ以上の反撃を許さない殺し文句となった。
それどころか、こんなペナルティなら受けても良いとすら…

(って、何考えてんのよ私は…)

どうやらティアナは頭の回転が速いのに対し、スバルは体が先に動くタイプらしく。
ティアナが頭で色々と考えている間に、その手はスバルに引っ張られていた。

「ちょ、ちょっとスバル?」
「行こ、ティア!」
「い、行くってどこに!?」
「まだ今日は始まったばっかりだよ?思いっきり遊ばなきゃ。せっかくのティアとのデートだしね」
「デ、デートじゃないわよ、馬鹿!」

ミッドチルダの空は、今日も快晴。
そんな空の下を歩くティアナとスバルの仲もまた、快晴だった。


あとがき
ヤバいな〜、リリマジ4の前に更新しようと思ってたのに間に合うか微妙になって
きたぞ〜…な霧崎和也です。カタログを買ってサークルチェックも一通りやったから
後はどうやって親を説き伏せるか(笑)

それは良いとして。勢いで書いちゃいました、スバティア。前々から書きたいとは
思っていたんですが、取っ掛かりが掴めずになかなか書く機会が無くて。でも俺は
〆切りが大嫌いな癖に〆切りに追われないとやらないタイプの人間らしく
リリマジ4という一種自分で決めた〆切りの直前になって、ようやく取っ掛かりを
得て完成にこぎ付けたという感じです。

元々はweb拍手用のSSSとしてUPする予定のものだったんですが、書いてみると
意外と筆(キーボード?)が滑って長くなったので、SS置き場に置くことと相成り
ました。それだけに今までのSSと比べると短いですけどね。やっぱり最初から
「SSとして」書いたものと「web拍手用として」書いたものではちょっと感覚が
違うみたいです。本当は違っちゃいけないんじゃないかな〜と思いますけどね。

元のタイトルも最初のティアの状況を指して「待ちぼうけ」にするつもりだったんですが
確かなのフェイSS合同誌2のぴーちゃん先生のSSの題名も「待ちぼうけ」だったので
急遽変更。あの人のSSと同じタイトルなんて畏れ多くて出来ませんよ、ええ。それで
数分悩みましたが、最後まで書いてみて「快晴だった」のフレーズが浮かび上がり
そこからこののタイトルになりましたとさ。なので最初の「快晴の空の下」というのは
後で入れたものだったりします;

見ての通り(?)スバティア話な訳ですが、最初はちゅーまで書くつもりは無かったん
ですけどね。気が付くとああなってました。何かなのはのキャラ達には俺の手に余る
パワーで自分達で動いてるような感があります。え?それは単にお前の計画性の無さの
せいだろうって?それを言っちゃおしまいでs(ry

ただまあ、最初に考えた方向から変わるというのは悪いことばかりではないと思うんですよ。
それはそれで中々楽しいものがありますし。俺の場合、話のネタは「1シーン」「冒頭」
「結末」のいずれかから思いつくもので、そこから取っ掛かりを掴んで(今回の場合は
ティアの待ちぼうけという「1シーン」でした)書いていくんです。だから例えば「結末」に
至るプロセスや「冒頭」「1シーン」から導かれる到達点が当初のものと変わるのは
往々にしてあることなんですね。
…あんまり頻繁にあるのもどうかと思いますけど;

それでは今日はこの辺で。相変わらず浪人生活中で親父にネット切断されてるので
次はいつになるか分かりませんが、またお会いしましょう。



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