「わぁ、綺麗だね……」

小高い丘を登りきった私の目に飛びこんできたのは、街中では見ることが出来ないような
たくさんの美しい花たち……まさにお花畑と称するに相応しい場所だった。
この町で暮らし始めてもうすぐ1年半になるけど、こんな場所があるなんて知らなかった。

「えへへ。学校のみんなもあんまり知らない場所なんだよ」

私がその光景に目を奪われていると、私をここに案内した少女……なのはが遅れて丘を
登ってきた。その楽しそうな笑顔に、私の口元も緩くなるのを感じる。
学校から帰る途中、なのはに半ば強引に引っ張られて何かと思ってきてみたら……。
本当にもう、なのははいつだって私に予想外の幸せをくれる。

「うん、素敵な場所だ」

色とりどりの花が、自己主張でもするかのように咲き乱れるのはすごく綺麗だった。
さっきまで上ってきた山道とはまるで違う世界。どこか別次元へ転移魔法を使ったみたい
だった。

「フェイトちゃん、お花も綺麗だけど、こっちも凄いよー」

なのはに呼ばれ、私はここに来て初めて足元の花から目を逸らすと、私はゆっくりと
花を折らないように歩いた。
こんな綺麗な場所を、私の足で汚したくないから。

「フェイトちゃん、随分ゆっくりだったね」
「だって、こんなに綺麗な花だもの、なるべく踏まないで歩きたいし」

あんまり意識しすぎて、なのはの所へ行けたのはそれから3分もかかってしまった。
でもなのはは焦れたり怒ったりしないで、いつもの、私の大好きな笑顔で見ていてくれた。

「優しいなぁ、フェイトちゃんは。わたし、フェイトちゃんのそういうところ、大好きだよ」
「……っ、なのは」

私としては当たり前のことをしたつもりだったけれど、それをなのはに誉められて、しかも
恥ずかしいような嬉しいような言葉も聞いて、私は何も言えなくなってしまった。
なのはは本当にずるいなぁ、と思う。だって、そんなことを言われた私の胸のドキドキは
しばらく抑えられなかったから。

「ぼーっとしないで。ほら、見てみて」

そんなことを考えてると、なのはが私の腕に自分の腕を絡めて、私をここへ連れてきた時の
ように引っ張った。一瞬よろけそうになったけど、なのはが受け止めてくれた。優しくて
暖かい感触が私を包んだ。

「ね? こっちも凄いでしょ?」

言われてなのはの指差す方向を見ると、丘の下に広がる海鳴市が見渡せた。
ビルが建ち並ぶ所があったかと思えば、住宅街や緑が広がる場所もあり、そしてその奥には
無限の広がりを感じさせる海がある。
確かに、なのはの言う通りだ。この景色も背中の「お花畑」と同じ位綺麗だった。

「そうだね……まるで、夢の中にいるみたいだ」

大好きな人と2人で、幻想的な光景の場所にいる。
本当に夢みたいで、夢ならしばらくは覚めないで欲しかった。





「あれ……なのは?」

しばらくそんな風に物思いに耽ったり、周囲の眺望に目をやったりしていたら、気がつくと
いつの間にかなのはが私の隣からいなくなっていた。

「なのは……どこ?」

左右を見回してもいない。私は突然、この浮世離れした世界に一人取り残されてしまった。
私の胸に、わずかな不安がきざす。

「ここだよ、フェイトちゃん!」

でも、その不安もほんの一瞬で吹き飛ばされた。
なのはの声が聞こえたと思うと、これまた突然私の頭に何かが乗せられたのだ。
驚いて後ろを振り向くと、なのはが変わらない笑顔で、でも顔に少し汗を滲ませていた。

「これは?」

振り向いた時に私の頭に乗った物が落ちたので、それを拾い上げる。
それは、1種類の綺麗な花でできた冠だった。

「えへへ、フェイトちゃんへのプレゼントだよ」
「プレゼント?」

……ええと。
なのはからプレゼントを貰えるのはすごく嬉しいんだけど。
今日は何でも無い日なのに、どうしてなのはは私にプレゼントをくれるんだろう?
黙って受け取ろうかとも思ったけど、やっぱりどうしてなのか気になるし、そういう疑問を
抱えこむのは良くないと思ったので、素直になのはに聞いてみる。

「そっか、フェイトちゃんは覚えてないんだね」

え?
今日って何か特別な日だったっけ?
なのはの誕生日は先月だった筈だし、私は自分の誕生日を知らないし、他に特に何か
あったかな?
……私が覚えてなくて、なのはが傷ついちゃったかな?

「覚えてなくても仕方ないか……もう2年も前だもんね。
今日は、私とフェイトちゃんが初めて会った日なんだよ」

ああ、そうか。
私は胸につっかえていた物が取れるような、すっきりとした感覚を覚えた。
友達になって、こっちの世界に来て。
それから一緒にいるのが当たり前になったから、すっかり忘れてしまっていたけれど。
2年前の、今日。
それが……私となのはにとっての、始まりだったんだ。

「フェイトちゃんは、自分の誕生日を知らないって言ってたけど」

続いて紡がれたなのはの言葉に、私ははっとした。
覚えてたんだ、私が前にそう言ったのを……。
それなのに、私はなのはと出会った日が今日だということをすっかり忘れていて。
すごく申し訳ない気持ちになった。

「そんな顔しないで、フェイトちゃん……わたしが好きでやったことだから。それで、
誕生日のお祝いが出来ないのは可哀想だったから、代わりにわたしとフェイトちゃんが
出会った日にお祝いをしようと思って……ダメだったかな?」

私はまた、言葉が出なくなった。
母を失い、絶望の淵にあった私を引き上げてくれたなのは。
こんな私のことを好きと言ってくれて、大切に想ってくれるなのは。
私にたくさんのものをくれたなのは。
この少女の優しさは、底無しなんじゃないかという錯覚すら覚える。

そんななのはが、どうしようもなく愛しくて。
私は、その小さな身体を強く抱き締めていた。

「ふぇ、フェイトちゃん?」
「ありがとう。そしてごめんね、なのは……。私は何も返せてないのに、なのはにずっと
貰いっぱなしで」

最初、なのはは驚いて私の言葉も聞けない状態だったみたいだけど、しばらくして
その腕が私の身体に回された。さっきのような心地良い体温を感じていると、なのはの口から
甘く優しい口調で言葉が漏れた。

「ふふ、今言ったでしょ? これは私が好きでやってることだって。それに、私だって
フェイトちゃんにたくさんもらったんだよ。だから、そんな風に自分を責めないで」

なのはの言葉の響きに、私はそっと彼女の身体から手を離し、正面からその顔と向き合う。
そこには、私にとって何より大切な人と、その太陽のような笑顔。
ずっと一緒にいたいと、ずっと側にいて欲しいと思わせる、優しい表情。

「ありがとう、なのは」
「うん! おめでとう、フェイトちゃん」

ただそれだけ言葉を交わして、再び私達は抱き合った。
もう、言葉は要らないから。
触れ合った身体から、背中に回した手から、お互いの想いが伝わってくるから。
――大好きだよ、なのは。





「そういえば、この花はなんていう花なの?」
「これ?これは忍冬っていうんだよ」
「すいかずら?」
「そう。……さて、ここでフェイトちゃんに問題で〜す。忍冬の花言葉は何でしょう?」
「花言葉? なのは、私この花の名前も知らなかったんだよ。分かるわけないよ」
「にゃはは、それもそっか。それじゃあ答えを発表しま〜す。忍冬の花言葉は……」





――愛の、絆。


あとがき
お久しぶりです。受験のためにネットを切られて放置プレイになり、浪人で
更にネット切断期間が延長された霧崎です(汗)コイツのデータは自分用の
親父のお下がりPCに残ってなくて、親のいない間に家族共用のPCから
データを持ち帰って来たいわくつきの逸品でs(ry

これも処女作「大きな桜の木の下で」同様になのはという作品を俺に教えてくれた
日依こよみさんに限りないリスペクトと共に誕生日プレゼントとして贈った品です。
プレゼントにするにはおこがましいブツだったのは処女作と変わらず。
書いた時期が一年ズレただけなので、季節的にも同じ春です。春と言えば花ですよね。
…それを2作続けて書くというのはどうかと自分でも思うけど。反省。

こっそり(?)浅木原師匠の元にも投稿してたりするので
自分では自虐的に「使い回しSS」と呼んでいたりもします。師匠のところに投稿したのは
こよみさんにコイツを献上してしばらくした後なので、季節も遭ってないという(汗)
でもえーま姐さんからコメントが貰えた時は素で喜んでました。

因みに俺は特に花に興味がある訳ではないです。
この話に出てくる「忍冬」には元ネタみたいなものがありまして。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、「.hack//G.U.」でこの忍冬という銘の双剣を
主人公とヒロインの一人が見つけて、主人公がその花言葉を呟いたためにツンデレなヒロインは
真っ赤になって走り去ってしまうという微笑ましいイベントです。
それを思い出してなのフェイに転用した訳です。パクリではない、インスパイアでs(ry

まあそんな使い回しの駄文なので、読んで頂けた方にはそれだけで無上の感謝を。
次はもっと良いモノが書けるように頑張りますよ〜。その前に大学受からなきゃいけないけど;
それでは。



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