12月24日、クリスマスイブの夜。

「やっぱり寒いねー」
「そうね、季節が季節だもの」

マミの家でのクリスマスパーティーを終えたまどかとほむらは、家路についていた。
本当はお泊り会にしたいまどかであったが、両親から許可が出なかったのである。
ほむらはそんなまどかを送る形で、並んで歩いていた。

「本当はお泊りしたかったんだけどね」
「そうね。でも、ご家族と一緒に過ごせるクリスマスなんてそう何度もないのだから、大事にしないと」
「……うん、そうだね」

両親と別れて一人暮らしをするほむらが言うと説得力がある。
暦の上では1年経っていない筈だが、彼女は自分を助けるために何度も春先の1ヶ月を繰り返した。
体感時間としては、一体どれだけの期間、彼女は両親と会っていないのだろう。
それを思うと、自分のために長い間戦ってくれていたことに対する感謝の念で胸が暖かくなると共に
どこか寂しさも感じてしまうまどかであった。

「それに、雪が降るかもしれないって話だし」
「ええ、気をつけないとね」

前日の天気予報では雪が降る可能性が伝えられていた。
今はまだ雪は降っておらず夜道は静寂に包まれていたが、雲行きは怪しくなりつつある。

「ほむらちゃんはお泊りできるんだし、一緒に出てこなくても良かったのに」
「まどか1人で夜道を帰すわけにはいかないわ」
「ふふっ、相変わらずだね」

一人暮らしのほむらに、特に門限というものは存在しない。
その気になればマミ宅に残ることも出来たが、彼女はそれをしなかった。
さやかからは「あんた本当にまどかを……いや、もう何も言うまい」と半分呆れられ、
杏子からは「相変わらず仲が良いな」とストレートな感想を述べられ、
マミからは「ふふっ、羨ましいわね」と微笑ましい目で見られた。
もっともほむらはいつも通り華麗に聞き流してはいたが。
そしてそんなほむらのまどかへの想いに、まどかも頬を緩めるのである。

「あったかい?」
「ええ。しなくてもあまり寒いとは思わなかったのだけれど、手袋って凄いのね」
「似合ってるよ、ほむらちゃん」
「ありがとう、まどか」

しばし無言で歩いた後、まどかの視線はほむらの手に行く。
そこには真新しい、鼠色の手袋があった。
プレゼント交換で貰ったもので、選んださやかは「自信作だよ!」と胸を張っていた。
言うだけのことはあり、その色合いは大人びた立ち居振る舞いをするほむらによく合っていた。

「……でも、さやかちゃんのプレゼントにばっかり夢中なのも面白くないなぁ」
「えっ」
「だからわたしからもほむらちゃんにプレゼント。えいっ」

言うが早いか、ほむらの首筋が暖かくなり、同時にもこもことした感覚を覚える。
最近はしていないので、すっかり忘れていたが、これは。

「これ……マフラー?」
「うん、わたしからほむらちゃんへ、特別なプレゼント。ほむらちゃん持ってないでしょ?」

そう、ほむらは普段から手袋もマフラーもしていなかった。
寒さに強いのか一人暮らし故のやりくりの結果なのかはほむら本人のみぞ知るところであったが。
とは言えまどかは(プレゼント交換の性質上、特定の人物に渡すことを想定していなかったさやかと違い)
それに気付き、彼女のために用意をしたということである。

「もしかして、これ、手編み?」
「分かるの? ほむらちゃんすごーい!」

しばらくマフラーを眺めていたほむらだったが、あることに気付く。
それは、ところどころ編み方が歪になっていること、また、市販ではあまり見たことのない模様をしていたことだった。

「ふふっ、おかしなこと言うのね。凄いのはまどかの方よ、手編みのマフラーなんて」

手編みというのは市販のものを買うのとは異なり、時間も労力もかかる。
渡す相手が大切な人でなければ、普通はできないことだ。
そしてそれは、同時にまどかにとってもほむらが大切な人だということを意味していた。

「そんなことない。わたしがほむらちゃんにしてあげられるのは、これくらいだから。ちょっと失敗しちゃったけど」
「ううん、そんなことない……いえ、これじゃ堂々巡りね。
まどかが私にこれだけのものを用意してくれたと言うだけで、私は本当に嬉しいわ。ありがとう」

自分の身体が、マフラーと手袋以外の部分も暖かくなるのをほむらは感じた。
首まわりが少しこそばゆいのも、ほむらには少し長く感じるそれも、全てが愛おしく感じられた。

「マフラーと言えば、まどかは今日はマフラーをしていないのね」

一通りその感覚を堪能した後、そう言えばまどかは普段どんなマフラーをしていただろうかと考え、彼女の首に目をやったほむら。
しかしそこにはマフラーの姿はなかった。
どんな色や模様だったかまでは覚えていないが、まどかは確かに普段マフラーをしている。
だとすれば、マミの家に忘れたのだろうか。
そうなると戻らないと……。

「えへへ、バレちゃった?」

ほむらの頭が忙しく回転するのを尻目に、まどかは対照的に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それは、こうするためだ……よっと!」

そのまままどかはほむらにプレゼントしたばかりのマフラーの片方を手に取ると、それを自らの首に巻いた。
一つのマフラーをまどかとほむらが一緒に巻く形になる。

「まどか……」
「えへへ、これでもっとあったかいでしょ?」

1人用のマフラーにしては長いと思ったが、つまり編む段階からここまで想定してのことだったのだろう。
ワルプルギスの夜と戦った時の自分並に用意周到だ、とほむらは舌を巻いた。

「うん……凄く、暖かい」

マフラーに包まれた2人の温もりが1つになる。
厳しい冬の夜の寒さにすら、それは入り込む余地を与えなかった。

「好き。大好きよ、まどか」
「わたしも、ほむらちゃん大好き」

目と目が合い、頬と頬が触れ合う。
吹き付ける風の冷たさがやがて肌の温もりに取って代わり、もっと暖かくなる。

「あ……ほむらちゃん、雪が降ってきたよ!」

しばらく目を閉じ、温もりに心も身体も浸っていたほむらだったが、まどかの声に顔を上げる。
見ると、ちらちらと雪の結晶が降りだしていた。

「メリークリスマス、ほむらちゃん」
「メリークリスマス、まどか」

ほかほかの心と身体、それを彩る静寂と白い雪。
どうやら今年は、久方ぶりのホワイトクリスマスとなりそうだ。


 あとがき めりぃーくりすますぅー、霧崎です。 クリスマスSSとか書くのいつ以来でしょうね、サイト開いてからは初めてなんじゃないでしょうか。 クリスマス前が3連休でちょうど良かったです、これ書いたのほぼ最後の一日の夜でしたが。 とまぁそんな訳で、初めてのまどか☆マギカSSです。 叛逆の物語を公開2日目に観に行ってからというもの、一度収まっていたまどか熱が再燃して その勢いでキーボードを叩いて書いた感じです。 いやぁ、考えれば考えるほど面白いお話です、まどか。 今回フォーカスを当てたのは主人公とヒロインと言うべきか主人公2人と言うべきか はたまたヒロイン2人と言うべきか非常に悩ましいところですが 鹿目まどかと暁美ほむら、いわゆるまどほむです。 この物語の根幹を成して、百合的な視点でも王道と言うべきCPだと勝手に思っていますはい。 まどほむと言ってもこのCPの特徴として時間軸によって組み合わせとしては色々ありまして。 霧崎としてはTV版時間軸のほむら(いわゆるクーほむ)と 本編時間軸かそれ以前のまどか(前者はいわゆる弱まど、後者は強まどと呼ばれたりします)の 組み合わせが好きです。 今回のお話もその組み合わせをイメージしてます。 ……まぁ、内容としては夜道でいちゃいちゃしてるだけの話なわけですが。 ごめんよ色々楽しく考察したのにアウトプットとして出てきたのがそんな単純な話でさ。 でもまどほむ良いですよ。もっと本編でも本編外でも百合百合していいのよ! もっといちゃいちゃちゅっちゅして良いのよ! それはそれとして、キャラとしては美樹さやかちゃんが一番のお気に入りなので 今回出番が無かった彼女もそのうち活躍させてあげたいですね。 杏さやほむさやまどさや、あるいはまどほむさやの三角関係とか 色々書いてみたいなーと漠然と考えてるネタはあります。 そんな感じで、今回はこの辺で。 まぁこの後本年中にはサイトの更新は無いと思われますのでご挨拶を。 メリークリスマス&良いお年を! それでは。 2013.12.24 霧崎 ギャラリーに戻る
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