「絵里ちゃーん、これはどこ?」 「それは生徒総会で使う書類だから、そっちの引き出しの2段目に入れておいて」 「はーい」 ある秋晴れの日のこと。 私と絵里ちゃんは、生徒会長のお仕事の引き継ぎがてら、生徒会室のお掃除をしていた。 別に掃除なんてしなくても散らかってなんていないのに……と思ったけど、絵里ちゃん曰く 「立つ鳥たるもの跡を濁したくない」 とのことだった。 後を継いだ私達のことも考えてくれてるのが分かって、何だか嬉しくなる。 「穂乃果、これはそっちの棚に置いておいて」 「りょーかいですっ」 実際に掃除を始めると、結構整理されていない書類やら何やらが出てきて、思いの外時間がかかっていた。 確かに絵里ちゃんと一緒に掃除してもらったのは正解だったかもしれない。 (あれ、何だろこれ) 部屋の隅にある引き出しを片付けていると、乱雑に裏返しになった紙の束が積まれた一角があった。 何でここだけこんな積み方なんだろうと不思議に思ったが、ひとまずここは先達にどうすべきか判断を仰ぐ。 「絵里ちゃん、ここに置いてある紙束はどうするー?」 「……ああ、それはゴミよ。捨てちゃっていいわ」 私のいる場所をを一瞥した絵里ちゃんは、特に考えることもなく処分の許可を出した。 横に置いておいたゴミ袋にそれを放り込……む前に、私は一度手を止めた。 魔が差したというと大げさかもしれないけど、中身が気になったのだ。 束のうちの一枚を表にして、書かれている内容を見る。 (原稿?) どうやら何かの挨拶の原稿のようだった。 鉛筆の手書きで、字から絵里ちゃんが書いたものだと分かった。 消しゴムで消した跡や、別の人の字(希ちゃんだと思う)による添削の痕跡もあった。 他の紙も見る。 すると、同じ様に推敲を繰り返したような原稿や、先生や理事長のコメントの入った書類、 部活の部長とやり取りをしたような形跡のある予算の書類などなど、色々なものが出てきた。 (絵里ちゃん、こんなに頑張ってたんだ……) 完成した書類や資料は別の場所に置いてあるから、作りかけのこれらは後で処分しようということでまとめて置いてあったのは分かる。 絵里ちゃんにとっては過ぎたことだし、ゴミとして捨ててしまって良いものなんだと思う。 だけど。 頭が良くて、可愛くて、仕事もできる、みんなの憧れの絵里ちゃん。 でもそれが最初からではなくて、並大抵ではない努力と苦労の末に成り立っていることを、この紙の束は雄弁に物語っていた。 私はゴミ袋に入れず、向きだけ整えて紙の束を元の引き出しに戻す。 「絵里ちゃん」 「なぁに、穂乃果」 「私、もっと頑張るね!」 絵里ちゃんだってこんなに沢山頑張ってきたんだ。 だから、その絵里ちゃんから生徒会長を継いだ私も、もっと頑張らなきゃ。 ううん、もっと絶対頑張って、絵里ちゃんみたいな生徒会長になる! そう決意を込めて、絵里ちゃんに告げた。 「……そう。楽しみにしてるわよ、頑張りなさい」 いきなりこんなことを言ってしまったものだから、絵里ちゃんは最初は首を傾げてきょとんとしていた。 でもしばらくして、私の言いたいことを何となく理解してくれたのか、笑顔に変わった。 いつもお姉さんっぽい絵里ちゃんだけど、妹を見守るお姉さんみたいな、優しい笑顔。 その笑顔を見て、この人が見守ってくれるなら絶対できるって、勇気が湧いてきた。 勇気百倍、元気百倍、生徒会長高坂穂乃果、頑張りますっ!
あとがき お久しぶりです、霧崎です。 本作は最近Twitterで流行っているワンドロ(1時間で出されたテーマのモノを書く)の SS版「ラブライブ版深夜の真剣ss書き60分一本勝負」用に書いたものです。 (因みに今回のお題は「ゴミ」でした) ラブライブSSも1時間勝負も初めてなのでどうなるかと思いましたが どうにかこうにか40分程度で書き上げました。 時間があればあるだけだらだらと書き続けてしまう性質なので こういった時間制限のあるものは逆に良いのかなぁと思ったりしています。 ラブライブはCP、コンビ的な視点で見ると過去に類を見ないレベルで多様性に富んでいて そこがまず凄いなぁと思います。 個人的に好みなのは主人公にして新生徒会長の高坂穂乃果と先代の生徒会長・絢瀬絵里の 組み合わせ、所謂「ほのえり」です。見ていて非常に幸せな気分になります。 2期で絵里ちゃんが穂乃果ちゃんを後継者に選んだという事実だけでお腹いっぱいです。 そんなわけで、今回は「引き継ぎの時にこんなことあったのかなー」みたいなことを 考えながら書きました。 ほのえりについては色々内で渦巻いているモノはあるのですが詳しく語ろうとすると本文より 長くなってしまいそうなので、今回はこの辺で。 それでは。 2014.05.04 霧崎 ギャラリーに戻る