「ほ、ほんとにやるのかー? この格好だぞ?」
「うん! いっくよー!」

1月1日、つまり元旦。
其処此処で着物を着た人々が年始の挨拶を交わす頃。
晴れ着を身に纏った唯と澪は初詣……ではなく、唯の家の庭にいた。
そして澪の左手には羽子板、唯の右手には同じ模様の羽子板と、羽根が握られていた。
どこから見ても羽根つきをする格好である。

「えーい!」
「もう……」

唯が羽子板で打った羽が宙を舞い、澪がそれを追いかけて、駆け出した。

なぜ彼女達は羽根つきをしているのか、話は1時間前に遡る。
今年は皆晴れ着姿で集った軽音部の面々で初詣を済ませた後、律が突如として羽子板と羽をどこからともなく取り出し
「せっかく元旦にみんな揃ったんだし、羽根つきでもやろーぜ」
と言い出したのである。
しかし言い出しっぺの律は両親に呼ばれ帰ってしまい、紬は家の用事、梓は憂や純と別の場所にまた初詣に行くとのことで同様にいなくなってしまった。
そしてその場には唯と澪、加えて何故か律が置いていった羽子板と羽根が残った。

「これ、どうするんだ……?」
「澪ちゃん、これからうちに来ない?」
「へっ?」

羽子板と羽根の処遇に困った澪に、突如として隣の唯からかけられたお誘い。
話の脈絡のなさに首を傾げたところに唯が続ける。

「せっかくだし、うちで羽根つきやろうよ」

そして(押しに弱い澪が唯に押し切られる形になって)今に至る。

「それっ!」
「ほいっ!」

しばらくの間、ラリーが続く。
最初は唯に付き合う形だった澪も次第に負けん気が顔を出し、力を入れて羽根を打ち返すようになる。
しかし唯も負けじとそれを拾い、際どいコースへ打つ。
なぜか段々と真剣勝負の色が濃くなり、ラリーは白熱したものになっていく。

「とうっ!」
「あっ!」

しかし、それも長くは続かず。
唯の渾身のスマッシュに、晴れ着で動きが鈍っていた澪の羽子板は届かず、羽根は地面に落ちた。

「えへへ、やったぁ」
「くっそー、もうちょっとだったのに」

心底悔しそうな澪を見て、唯は今年始まって一番とも取れる笑顔を浮かべた。

「さーて、澪ちゃんの顔に墨で落書きしちゃうよ〜?」
「そ、それもやるのか!?」
「もっちろん! んっふっふ〜、覚悟しててね?」

やがてその笑顔は悪戯っぽいものに変わる。
突発的に始まった羽根つきだったので、墨塗りまでしっかりやると思っていなかった澪は目を丸くした。

「……っとっと、そうだ。年賀状で墨汁全部使っちゃったんだ」

鼻歌を歌いながら墨の準備をしようと玄関に向かった唯だったが、ドアノブを回す直前で手を止める。
どうやらその墨がなくなっていたことを思い出したようだった。

「じゃあ、もうなしで良いんじゃないか?」
「うーん、せっかく羽根つきしてるのにそれもねぇ」

平沢家に墨がないことに安堵し、そのまま一種の負けの罰ゲームを無しの方向に持ち込もうとした澪だったが
唯は唯で妙なところにこだわりがあるようで、澪の提案に首を縦には振らなかった。

「……そうだ! じゃあ、こうしよう」
「へ?」

しばしの間考え込んでいた唯だったが、やがて何かを思いつくと澪の方に走り寄ってきた。
唯の行動の意味が分からずに呆気に取られままの澪の頬に手をあて。

ちゅっ、という音と共にその頬に口づけを落とした。

「え……えええええええええっ!?」

一瞬何をされたか分からず、更に呆けた顔になった澪であったが。
その意味を理解すると、茹で蛸もかくやといったように、顔を真っ赤に染めた。

「ゆゆゆゆゆゆゆ、唯! な、何するんだ!?」
「嫌だった?」
「い、嫌なんかじゃないけど……って、そういう問題じゃ」

狼狽に狼狽を塗ったような澪に対し、唯は相変わらず無邪気とも言えるような微笑みを浮かべている。
そしてそのまま澪から離れると、落ちた羽根を拾って構える。

「よーし、もう一回やろう!」
「も、もう一回って、もし私が負けたら」
「もっちろん! 澪ちゃんが負けたらまたちゅーしちゃうから、覚悟しててね?」

天使のような、そして澪にとっては悪魔にも見えた唯の笑顔。
嗚呼、新年早々自分は心拍数の上がり過ぎで死んでしまうのではないだろうか。
そんなことを考え、溜息と共に空を見上げた澪であった。


 あとがき 本日1/15は秋山澪ちゃんのお誕生日です。おめでとうございますどんどんぱふぱふー。 というわけで誕生日にかこつけてお正月で唯澪をちょっとだけいちゃつかせてみました。 誕生祝いSSなのに誕生日要素ゼロです、申し訳ない。 嗚呼、1月生まれの子のお正月と誕生日祝いを一緒にしてしまう気持ちが分かった気がするよ……。 因みにタイトルの「ろうけつ染め」とは、古代の染色技法の一つで 模様部分をろうで塗り、防染と同時に独特の模様を生み出すものだったようです。 筆にろうを塗って染めることもあったらしく、そこら辺を墨がなかったので代わりに ろうと同じであまり色のでないちゅーを罰ゲームにした唯とかけてます。 ……我ながら分かりづらい。 とまぁそんな感じで、本編も短いので後書きもさくっとで。 それでは。 2014.01.15 霧崎 ギャラリーに戻る
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