「あ、雨……」

 ぽつりと呟いたのは、高町なのは。彼女は白い聖祥大付属小学校の制服を身にまとい、玄関で立ち尽くしていた。
 もちろんただ何の意味もなく立っているわけではない。職員室に用があると言って今ここには居ない親友、
フェイト・T・ハラオウンを待っているのだ。
 他の親友達は、アリサとすずかは習い事。はやては管理局の仕事が忙しいからと先に帰ってしまっていた。
 手持ち無沙汰に空を見上げていたなのはだったが、先程呟いたように、天から雫が降ってくる。
 つまりは、雨。それは段々と激しくなっていき、瞬く間に土砂降りへと変わっていった。
(……よかった、傘持ってきておいて)
 今朝家を出るときに、母親から渡された折り畳み傘を、そっと握り締める。
 今日は朝は快晴だったし、いらないと一度は断ったのだが、父親や兄である恭也が「今日は確実に雨が降るぞ」と
言ったので持ってきたのだ。あの二人が雨が降ると言うと百発百中で当たる。天気予報もいらないぐらいだ。
……全く、どこまで人間離れしているのかと溜息の一つでも吐きたくなる。
 そんな風にうだうだと家族の人間性についてなのはが考えていると、近くで声がした。

「あ……どうしよう、雨、降ってるよ」
「ホントだ……。傘持ってきてないよ……」

 見れば、そこにいたのは自分達よりも下の学年――一年生だろうか――の女の子が二人、立ち尽くしていた。
 どうやら傘を持っていないらしい。確かに傘を差さずに帰ろうと思えば帰れるかもしれないが、
確実にびしょ濡れになることだろう。そうなると最悪風邪を引いてしまうかもしれない。
 すると片方の女の子が、持っていた鞄の中からタオルを出して、もう一人に手渡した。

「ほら、タオル持ってるから、これかぶって帰って。そうしたら少しはマシだと思うから」
「え、で、でも……」
「わたしは大丈夫だから! だから、これ使って」
「で、出来ないよ! だってそれじゃあ風邪引いちゃう……っ!」

 そうして始まったのは言い争い。タオルを渡した子は頑なにそれを受け取ろうとはしないし、もう一方の子も
帰ろうとはしない。

(このやり取り、どこかで見たことがあるような……)

 しばらくじっと見ていたなのはだったが、ふと思い出す。確か、前に雨が降ったとき。

『私は大丈夫だから、なのははこれ使って。少しは濡れないはずだから』
『だ、駄目だよ! これはもともとフェイトちゃんのなんだから、フェイトちゃんが使って!』
『ううん、私はなのはに風邪なんて引いて欲しくないから』
『わたしだってそうだよ! フェイトちゃんに風邪なんて、引いて欲しくないっ』

 あまりに目の前で展開されている会話がそのときのなのはとフェイトの会話にそっくりで、なのはは思わず破顔した。
 結局は、お互いがお互いを大事に、大切に思っているだけなのだ。
 それが故に譲れなくて、ちょっと言い争ってしまったり。
 なのはとフェイトはその後、ちょっとした喧嘩に発展してしまったのだけれど。
 ――目の前のこの子達には、そんな風になって欲しくなかったから。

「はい。これ、使って」
「「え……?」」

 声が重なる。
 驚かせてしまったかなとなのはは思ったけれど、これ以外にいい方法など思いつかなかったのだ。
持っていた折り畳み傘を差し出して、もう一度台詞を繰り返す。

「だから、これ使って?」
「で、でもそれじゃあお姉さんが……」

 するとタオルを持っていた子の方がそう言って渋る。優しい子なんだなぁと思いつつも、
なのははにっこりと笑って。

「大丈夫。わたしの友達が、傘持ってると思うから」

 確かフェイトも傘を持って来ていたはずだ。朝それらしい会話を交わしたのを覚えている。

「でも……」

 それでもやはり見知らぬ人の傘を貸してもらうのには抵抗があるのか、隣にいる子と視線を
合わせてどうしようかと悩む少女。
 そんな様子に、なのはは最終手段に出ることにした。

(少し、恥ずかしいけど……)
「あのね、実はこの傘、持っていってくれると、嬉しいんだけど」
「え?」
「さっき言ったわたしのお友達もね、傘を持ってるかもって言ったでしょ? でも、わたしも持ってるから、
相合傘が出来なくて残念だなーって、思ってたの」

 そう言って、照れ笑い。
 これは嘘などではなくて、なのはの本心だった。いつも雨が降る日はフェイトがうっかりして傘を忘れるので、
なのはが傘に入れている。けれど今日はちゃんと持ってきていたので、密かに残念だったのだ。
 ――たまには、傘に入れてもらいたいし。
 そんななのはの心情を理解したのか、少女達はおずおずと、ありがとうと言って差し出した傘を受け取った。
そのまま二人、歩き出すのを見送る――と。

「お姉さん、ありがとう!」
「その子と相合傘、出来たらいいね!」

 そう言って、雨の中仲睦まじく歩いていく。その様子に、なのはは顔を綻ばせた。
 ――まるで、なのはとフェイトのようだ、と。
 きっとあのタオルを貸そうとした優しい子がフェイト。もう一人の子はきっとその子のことが大好きなのだろう。
 だってその子を見詰める瞳は、フェイトを見るときのなのはそっくりで。

「なのは、遅くなってごめんっ!」
「フェイトちゃんっ」

 そうしていると、フェイトが走って玄関までやって来た。走らなくてもいいものを、と思うが、
きっと待たせたくはなかったのだろう。全力で走ってきてくれていたようで、息が切れている。

「ご、ごめん、なのは……待たせ、ちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。それよりフェイトちゃん、傘持ってる?」
「え? う、うん。持ってるけど」

 やはりなのはの記憶は正しかったらしい。そのことに安堵しながらも、尋ねる。

「ねぇ、わたし傘忘れちゃったんだ。入れてもらっても、いい?」

 絶対に入れてくれるという、確信を持って。



  ◇



 そして雨の中、相合傘で帰るなのはとフェイト。その道すがら、フェイトはなのはに尋ねた。

「……ねぇ、なのは。朝傘持ってきたって言ってなかった?」
「ふぇっ!?」

 驚くなのは。そう言えば、朝にそのような会話を交わしたときに言ったような気がする。
 なんとかして誤魔化そうとするが、フェイトの前には無駄に終わった。フェイトが心配そうに覗き込んでくる。

「傘、どうしたの? 失くした?」
「う、ううん。そうじゃないよ、ただね……」

 なのはは観念して、先程の出来事をフェイトに話した。けれどなのはとフェイトに似ていて、ということは
伏せてではあったが。流石にそこまで話すのは恥ずかしい。

「そっか。なのははやっぱり、優しいね」
「そ、そういうわけじゃ」

 にこりと微笑みながらのその言葉は反則だ、となのはは思う。特に今は同じ傘の中、お互い濡れないように
近い距離でいるのだ。至近距離の笑顔はとんでもない破壊力を秘めている。

「ううん。なのはは優しいよ。……その、だから」

 と、そこで言いよどむフェイト。続きの言葉が気になってじっとフェイトを見詰めると、どもりながらも
伝えてくれた。

「だ、だから、私……なのはのことが、大好きなんだよ」
「……っ!」

 突然の告白。はにかみながらのそれに、なのはの心臓がどくんと大きく跳ねた。

(……もう、フェイトちゃん、ホントにそれ、反則……っ)

 けれど決して嫌なわけじゃない。ただ、少々我慢が効かなくなるだけで。
 なのははフェイトの傘を持つ手に自身のそれを重ねると、お互いの顔が周りから見えないように隠す。

「え、なの……っ!」

 そのまま、疑問の声を上げかけるフェイトの口を塞いだ。
 軽く合わせるだけのキス。そっと離すと、フェイトは真っ赤な顔で視線を逸らした。

「も、もう、なのは……」
「にゃはは……ね、フェイトちゃん。もういっかい、いい?」

 そのなのはの照れながらの問いかけに、フェイトは軽く頷いて。



 もう一度ふたり、傘の下でキスをした。



<From K>

さjばまpwでhな;lkふじこ

何よりもまず、「それ」が届き、「それ」の意味するところを知った俺は↑こんな感じになりました。

2007年某日。いつに無く色々な人から誕生祝いを受けた俺は、ネット封鎖中につき話すと長くなるような
方法でメールボックスのチェックをしてました。すると見慣れないアドレスから一件メールが届いてる。
どうやら「あの」隅田さんかららしく、何であれだけの人が俺なんかのアドレス知ってんだとか
自分のサイトにアドレスを晒し上げたことも忘れて考えながらメールを読み進めていくと、何と誕生日を
お祝いして下さるメールらしく俺のテンション一気にアップ。しかもメッセージだけじゃなく他に
添付ファイルもあって、そこに書かれていたのが「それ」…即ちこの作品でした。

いやもうね、寝耳にミミズクどころか寝耳にSLBくらいのインパクトが俺を襲いましたよ。
だって隅田さんですよ?「フェイト×なのはを応援するサイト」さんに投稿していた様な、俺がまだ百合に
目覚める前からなのフェイを愛してやまなかったキャリアの持ち主ですよ?磁石よりも強いN極とF極の
結びつきに関するSSとか、なのはが早口言葉を言えない姿に悶えるフェイトさんの漫画とか、一人で
文と絵の両方から俺を悶えさせてくれる人なんてこの人くらいしかいないのですよ。そんな人が一介の
なのフェイスキーな俺にこんなSSをくれるなんて、にわかには信じ難いことだったのですよ。
しかもこのSS、その後も自分のサイトに飾ってないんだよ隅田さん。
こよみさんの誕生日にあげたSSを平気で再利用してサイトにうpする俺とは大違いだよ、うん。

…そんな訳でやってることが余りにも器用かつ質の高い人なので最近まで同い年だと気付きませんでした;
つーことはアレか、なのフェイ合同誌2とアリすず合同誌は書き手に受験生2人を抱えてたことになるのか。
今考えてみれば凄い話だなぁ。kitさん、師匠、お疲れ様でした。この場を借りて感謝の言葉を。
そして俺だけ今年も受験生…と。

何だかグダグダになってしまいましたが、言いたいことは2つ。

ひとつ。霧崎和也が命じる!全国のなのフェイファンよ、全力でこの素晴らしいSSを読め!
ふたつ。隅田さん、本当に有り難うございました!そして長い間お返事ができなくて済みませんでしたorz


浅木原師匠みたいに「すみだんは俺の嫁」と叫びそうになったのは秘密。


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